Ⅰ.ふしぎの国のブランコ

 漕がないのにひとりでに動き出すふしぎなブランコがある。

 公園にあるブランコは、たいてい二つが並んでぶら下がっているが、一方のブランコを揺らしてももう一方のブランコは初めに止まっていればそのままずっと止まっているし、揺らせば隣のブランコの動きとは無関係に揺れている。 ところが不思議の国のブランコは、一方のブランコ(A)を揺らすと、はじめ止まっていたもう一方のブランコ(B)は、何もしないのに動きだす。Aの乗り手が漕ぐのをやめてもBの揺れはどんどん大きくなり、他方Aのほうはだんだん揺れが小さくなってゆく。そしてBの揺れが最大になったとき、Aは完全に止まってしまうのである。こんなときAがあせって漕ごうとしても揺らすことはできない。でも何もしないで成り行きに任せていると、次第にまた揺れ始める。そして今度は大揺れしていたBの揺れが小さくなってきて、遂には全く止まってしまう。このときAは再び元の大揺れに戻る。こうしてこれを何度も繰り返し、交互に揺れたり止まったりするのである。いったいなぜなのだろう。

写真1 共振ブランコ
 よくよく見るとブランコの構造が、公園のブランコと少し違う。公園のブランコは二つとも固定された水平の枠に吊り下げられているけれども、この不思議なブランコは、その固定枠の下にもう一本鮮やかな黄色に塗られた水平な棒があって二つともそれに吊り下げられている(写真1)。そしてこの黄色の棒はブランコが揺れるたびぐらぐらと少し動いていることに気がついただろうか。そう、それが謎を解く大事な鍵なのだ。 ここでは、一方のブランコAを大きく揺らすと黄色の棒がそれと一緒に少し揺れ、もう一方のブランコBにAの揺れの振動を伝えることになる。そこで次のような実験をしよう。

 図1のように、糸をゆるくたるませて水平に張り、そこに数個の振り子(a~f)を結びつけて吊るす。これらの振り子の糸の長さは長いものや短いものまちまちにする。ただし同じ長さのものを1組作っておく。いまそれをbとdとしよう。

図1 共振振り子モデル実験器
 さて、ここでいまbだけを揺らしてみると、吊るしている水平方向の連結糸もつられて少し揺れるので、ほかの振り子も皆少しだけ揺れだすが、しばらくするとdだけが大きくゆれ、bは止まってしまうだろう。でもそのうちまたbは揺れ始め、同時にdの揺れが小さくなってやがて止まるということを交互に繰り返してちょうど不思議の国のブランコと同じ運動をする。吊糸の長さの異なる(bとd以外の)振り子にはこのような動きが見られないのに、糸の長さが同じ振り子の間でだけ見られるのはなぜだろう。実はこれは共鳴の原理なのである。

 大きな釣鐘を小指一本で動かして見せたという昔話があるが、これは小指で押す力は小さくても繰り返す周期を釣鐘の揺れる周期にあわせてうまく押すと、重い釣鐘でも共鳴の原理で動き出すのである。

 16世紀の夕闇迫る寺院で、今しがた火をともしたばかりの吊り燈篭が天井の下でいつまでも揺れているのを見て、とっさに自分の手首の脈を数えて振り子の等時性を発見したのはガリレオであった。彼は振り子の揺れの周期は吊り糸の長さによって決まることも知っていた。振り子の周期は、糸の長さが同じならばおもりの重さ(質量)の大小には無関係でいつも同じ値なのである。

 いまbの振り子を揺らすとその揺れは水平方向の連結糸をわずかに振動させながら、ほかの振り子に伝わるが、このときそれと同じ周期の揺れ方をする振り子があると、その振り子は共鳴してこの連結糸から振動のエネルギーを吸収し、揺れがどんどん増してゆくのである。

 この振動エネルギーの源はbであるが、bの持っていたエネルギーは最初に揺れていたときの運動エネルギーであり、その量は有限であるから振り子dに吸収されてしまうとゼロになり、bは止まってしまうのである。そして今度はdの揺れによる運動エネルギーを連結糸の振動を通して吸収して取り戻してゆくということを繰り返すわけである。

 ところがもし供給するエネルギーが十分大きい場合は、一旦共鳴が起きると恐怖の事故や災害につながることがあるので恐ろしい。車や航空機等で共鳴が生ずると、時に壊滅的な事故につながる。米国ワシントン州にあるタコマの橋は峡谷を吹く風の周期に共鳴して崩落した。

(「ふしぎの国のブランコ」とは、発見工房クリエイトのオリジナル科学遊具であり、1997年に科学技術振興事業団主催の第1回科学展示アイディアコンテストで、[共振ブランコ]という名称で優秀賞を受賞した。)

 このブランコは、林の中で自然の樹木にロープをかけて、簡単に吊ることも出来る。稲城市では、“ふれあいの森のイベント”で、学童保育の子ども達が森林浴をしながら楽しく科学体験をした(写真1-2)。 また、写真1-3のように校庭でも何処ででも簡単に吊ることが出来る。

写真1-2 ふれあいの森で
共振ブランコの体験
写真1-3 どこでも吊れる共振ブランコ
(若葉台小学校校庭にて)


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