Ⅴ.ポテンシャルすべり台
ふしぎの国のすべり台は馬の
この形をずっと大きく拡大して、巨人の乗る鞍のような形のすべり台を作り、この上を滑ったらどうなるだろう。出発位置は鞍の一番高いところで、ここまでははしごで上る(写真6)(写真6-a)。
ここから滑り出すのだが、ここはほんの猫の額ほどの狭いスペースだけ曲面を水平にカットしているので、滑り台の切り口は円弧になっている。この円弧上のどの位置から滑り始めるかで、下りる方向が決まる。どの方向に向かって滑ってもよいが、ほんの少しだけ滑り出し点の位置が違っただけで、その後のコースが決まってしまい、ひとだび滑りはじめたら、もっと遠いところへ降りようとか、いや左の手前へ降りたいのだがとか思っても自分の考える通りにはゆかない。運命のコースは滑り出し点の位置だけで決まってしまうからふしぎである。ためしにボールを転がしてみるとよい。転がしはじめるときにはボールに速度を与えず、円弧のへりから静かに手を離してころがすのだ。たいていは尾根から外れて右側か左側へころがって落ちてゆくが、尾根の一番低くなっているところ(ここを
[注意する点]人がこのすべり台を滑るときは、うしろ向きのままバックするとお尻から着地して、びてい骨を打つことがあるから、必ず座布団を敷いて滑ること。
[おもしろい点]この滑り台は、普通のすべり台のように下りるコースが決められていないのであるが、最初の出発点を決めることにより、その後のコースがひとりでに決まってしまい、思いもかけないところに下りてしまうのでおもしろく、何回でも試して探求したくなる。そうしてすべるうちに、このような形状の「ポテンシャルの丘」があるときの運動を、体験を通して自然に会得してしまうのである。それは力学の問題を解くときにいつか役立つときが来ることであろう。
この鞍形すべり台を図3のように鞍点を通る水平面で切ると、その切り口は鞍点で交わる2本の直線(AC と BD)となる。この滑り台にはどこにも平らな面はないのに、直線がピタリとくっつくところがあるのだ。もしもこのような鞍形の丘があって、そこにこの直線に沿った道を作ったとすると、その道は水平にどこまでもまっすぐに続くのだからふしぎだ。
またこの鞍形すべり台を、尾根に沿って鉛直面(地面に対して垂直な平面)で切ってみると、その切り口は上が開いた放物線となり、鞍点はその極小点である。ところが、これと直交する別の鉛直面で鞍点のところを“かまぼこ”を切るように切ってみれば、その切り口は下が開いた放物線となり、鞍点はその極大点である。つまり鞍点とは、極小点でもあり、極大点でもあるというふしぎな点であるから、この点の近くを通ると予想もしない方向に滑り降りることになるのである。