Ⅱ.ふしぎの国の回転ステージ

写真2-a 回転ステージ「コリオリ」
 回転するステージの上で二人の子どもが少し離れて向き合い、相手に向かってボールを転がしている(写真2-a)。まっすぐに転がしているつもりなのに、どうしてもボールが円弧を描いて曲がってしまい、相手に届かない。
「あれー、なぜなのォー」
子どもたちは叫びながら幾度もやってみるが、ボールは生きているかのように一人で曲がりだし、相手から逃げてしまうのである。ステージの上でこれを見ている見物客もボールが確かに曲がってそれてゆくのをその目で見て不思議に思っている。

 実はこれ、彼らが載っているステージ全体が回転しているのである。ステージの外に離れて立って眺めている客は、「何がそんなにおもしろいの?」といった顔である。彼らにはボールは普通に転がっているように見えるからである。けれども交代して一度ステージに載って体験してみるととたんに思わず
「わーおもしろーい、ふしぎだー」と叫ぶだろう。

 そこで次に、この不思議を解明する装置へとご案内する。この装置は直径50センチの円盤を水平にしてモーターで回転させ、その上にビー玉を打ち出して転がすものである(写真2)。上部にはこの円盤と一緒に回転する小さなビデオカメラが取り付けてあり、その映像を電波に載せてすぐ近くに置いてあるモニターテレビに映し出している。したがってこの映像は、回転ステージの上に載っていた人が見たボールの動きと同じものを映し出すであろう。

写真2 回転ステージのモニター実験装置
 さてそれでは円盤を回転させ、発射台からビー玉を円盤上に打ち出そう。最初はモニターテレビを見ないで、直接自分の目で円盤上での玉の動きを見てほしい。玉は曲がって進んでいるのか、まっすぐに進んでいるのか。
「あれ、まっすぐだ。」
「そうです。円盤は回転しているけれども、ビー玉は直進していますね。ではもう一度同じことをしますから、今度はモニターテレビを見ていてください。いいですか、では発射!」
「うおーっ、まがった。さっき外で見たのと同じだ!」
「今度は円盤の回転をもっと速くしますよ。発射!」
「うおーっ、もっとまがった!」
「さらにもっと速く回します。発射!」
「うおーっ、丸くなった! 交わったぞっ!すごーい!」

 この実験ではビー玉の発射速度は一定にして、円盤の回転速度だけを変えて行なったが、つぎに円盤の回転速度を一定にしておいて、ビー玉の発射速度を変えてみる。すると、玉の速度が遅いほど軌道が曲がることがわかった。(図2)

図2 回転ステージの直径の上のA点からB点に向かってボールをころがしたとき、ステージ上でボールのたどる道筋。ボールがA点からB点に到達するまでの間に、ステージが矢印の向きに1/4回転した場合が①、②は1/2回転した場合、③は3/4回転した場合である。

「さあみなさん、回転ステージの上でボールが曲がったのはなぜだったのかわかりましたか?」
「わかった。台が回っているから。ほんとうはまっすぐなんだけど。自分も回っているから。」
うまくいえないけれど、子ども達はみんなわかった気がした。

 地球は自転しているので、われわれの住んでいる大地も実はゆっくり回転しているのである。北半球と南半球では回転の向きが逆であり、赤道上では回転はない。ただ回転が非常におそいので身の回りの物の運動を見ただけでは気がつかないが、気象や海流など広い範囲の運動では影響が出てくる。

 私たちが回転する世界の中にいると、真直ぐ進んでいるものが曲がって見えるので、あたかも進行方向に垂直な方向からたえず力を受けているかのようである。これをコリオリの力と呼んでいるが、回転する世界の外に出て、静止した世界(または等速で動いている世界)からこれを見るときは、曲がらずに真直ぐに進んでいる。

 つまりコリオリの力とは実際には働いていない見かけ上の力であるということがわかったであろう。それは電車が加速しているとき、乗客は何かの力で後ろに引っ張られて倒れそうになり、ブレーキがかかったときは前にのめりそうになるのと同じである。エレベーターが上昇し始めるとき体が重く感じられ、下降しはじめるときフワッと浮くような感じがするのもおなじで、みな加速方向と逆向きになにかの力で引かれているように感ずるのである。これらは加速度運動をしているときにだけみられる見かけ上の力で「慣性力」と呼んでいるが、コリオリの力も実はこれと同じ見かけ上の力なのである。


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