Ⅲ.フーコーぶらんこ

 ふしぎの国の回転ステージの中央には大きな球形の玉がロープで吊ってある。これを吊っているアーチ状の鉄枠は、回転ステージの柱とつながっている。この球に人が乗って揺らせばぶらんこになる。初めステージが回転していないときにこのぶらんこをある一定の方向に揺らしておいて、つぎにステージを回しはじめたら、ぶらんこはどのように揺れるだろうか。
「台といっしょに回りながら揺れるのかな? それともはじめとおなじ揺れ方なのかな?どちらだと思う?」
「はーい、台といっしょに回りながら揺れる!」
「みんなもそう思う?」
「うん、そう思う。」
大多数の子どもたちはこれに賛成して手を挙げた。
「では、やってみよう。誰かぶらんこに乗りたい人いますか」
「ぼく乗る!」
真っ先に手を挙げてぶらんこの球に跳び乗ったのはたけし君だった。

写真3 フーコー振り子のぶらんこ
「では初め南北の方向に揺らすよ。普通のぶらんことおなじに揺れているよね。そこの土手と同じ方向だからね、よく覚えておくんだよ。さあ、ステージの上にも誰か載って、たけし君がどんな風に揺れるか見てよく見てください。そしてあとの人はステージの外で眺めてください。皆このぶらんこの動きをよく見ていてくださいね。いいですか、ではステージをゆっくり回してくださーい。」(写真3)

 ステージの周りに居る子どもは回転台の手すりや柱を押して回し始めた。するとどうだろう。
「うわ―、何だこれ! 目が回っちゃうよー。」
ステージの上に載って観察している子どもは、たけし君の乗ったぶらんこが右へ行ったかと思うと手前に来たり彼方此方に動き回るので、何がなんだかわからなくなって目が回ってしまった。ステージを押しながら周りをぐるぐる回っている子どもも同じだった。

 ところが、ステージを離れて外に立って見ている者は、振り子のぶらんこがステージの回転とは無関係に、最初と全く同じように土手と平行に揺れていることに気付く。
「ほら、ステージを回転させてもぶらんこは最初に揺らした方向にずっと揺れているよ。よく見てください、南北にだけゆれているでしょう。」
「あれ、ホントだ。へー、ふしぎだー。」

 ぶらんこに乗っているたけし君は、目が回るに違いないと思って丸くなって縮こまっている。
「たけし君、遠くの景色を見てごらん。ちっとも目なんか回らないから。」
云われてたけしは顔をあげて外の景色を見る。ステージの上に載っている目の前の子ども達はぐるぐる回ってちらつくので、それを見たら、目が回ってしまう。けれども遠くの樹などを見ていれば、どれも回ってはいない。公園のふつうのぶらんこに乗っているときと同じ気分なのだ。
「ホントだ。平気だ。へーふしぎ。どうしてなんだろう。」

 このぶらんこは、ステージを速く回してもゆっくり回しても、回転を止めても、また回転方向を逆にしても、そんなことには無関係に最初に振らした方向にだけ揺れているのである。 これはなにもこのぶらんこに特別の仕掛けがしてあるわけではない。振動というものはみなそういうものなのである。これはみんなにとっては驚きの大発見であった。

 フランスの物理学者フーコーは、今から150年ほど前にこの原理を使って地球が自転していることを証明しようと考えた。地球は24時間で一回転する。かりに北極または南極の地点で振り子を吊って揺らしたとすると、その揺れの向きは地球の自転につれてしだいに変化してゆき、24時間経つと元に戻るはずである。実際には私達の住んでいる場所は緯度が90度より小さい地点なのでこれとは多少異なるけれども、振り子の揺れの向きは時間と共に変化してゆく。(ただ赤道付近ではこの変化は見られなくなる。)

 フーコーはパリのパンテオンで、長さ67メートルの長いワイヤーに28キログラムの鉄の重りを吊り下げた振り子をつかって、この実験を行った。地球が1日24時間で自転しているならばそれを証明するにはそれ以上の時間振り子は揺れ続けていなくてはならない。振り子は空気の抵抗で次第に揺れ幅が減衰して行くから、その減衰をできるだけ小さくするために、吊り糸(ワイヤー)の長さを充分に長くとり振動の周期を長くしてゆっくりと振らし、また重りの重さは充分に重くコンパクトにして、空気の抵抗の影響を出来るだけ少なくした。

 こうしてフーコーは1851年に多くの人々の前でこの実験を行い、振り子の揺れの向きが、24時間の周期で変化して行くことをしめし、地球が自転していることを証明したのであった。


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